林檎いとしや

Vol.62
大谷 和利

Fantavisionのために買ったポータブルマシン

Apple IIc

 僕は私設Macエバンジェリストを自称しているが、実は1台だけApple IIシリーズの製品も持っている。それがAppleIIcであり、今では動かすことはないものの、仕事机の傍らの金属製ラックからぶら下げて、いつでもそのデザイン(FrogDesignによるデザイン言語「スノーホワイト」による最初の製品だった)を目で見て楽しめるようにしてある。
 他の思い出のApple製品に関しては、様々な媒体で散々触れてきたので、ここでは少々毛色を変えて、このApple社初のポータブルマシンについて書いてみたいと思う。
 Apple IIcの"c"には、MacIIcxの"c"と同じく"compact"の意味が込められている。拡張スロットが大きな特徴だったAppleIIシリーズの末弟として、AppleIIcではクローズドなパッケージングを採用する代わりに、後のノートコンピュータに通じるスリムでスタイリッシュな筐体と可搬性の高さをセールスポイントとしたのだ(とは言え、他のAppleII製品では拡張カードを利用して外付けする必要があったフロッピーディスクドライブを標準で内蔵しているなど、スロット無しでも基本的な作業には困らないような仕様だった)。
 なぜ、それ以前にも存在した、いわば主流派のApple II製品は買わず、シリーズの哲学から言えば傍系とも思えるAppleIIcを購入したのだろうか? もちろん、デザインに惹かれた部分もあるし、(バッテリこそ内蔵していなかったが)持ち歩けるコンピュータというコンセプトに魅せられたところもある。
 しかし、実際のところは。多くのベテランApple製品ユーザーの皆さんと異なり、AppleIIが全盛期を迎えていた頃には、高嶺の花でとても購入できなかったのが真相だ。Apple IIcは、何とか手の届くようになった初めてのAppleIIだったというわけである。
 しかも、実際の入手時期はMacintoshPlusを買った後のこと。当時のCG仲間の何人かと一括購入をしたいとキヤノン販売に掛け合って日本にあった最後の在庫(と言っても5、6台だったが)をすべてかき集めてもらい、処分価格で販売していただいた。だからこそ、フリーランスに成り立てだった僕でも何とかオーナーになれたのだ(それでも、今ならPowerBook G4の12インチモデルが買えるような金額なのだから、今、思い出しても驚いてしまう)。
 そこまでしてApple IIcが欲しかったのにはワケがある。当時、Broderbund社(LodeRunnerやKidPixで知られたソフトハウス)が販売していたFantavision(PlayStation2のFantaVisionというパズルゲームとは無関係)というソフトを使いたかったのだ。
 Fantavision(http://www.callapple.org/apple2/magazines/aar/
fanvision.html。実物はカラー対応)は、今のEVAアニメータキッズの原型のようなベクターグラフィックスベースのアニメーションツールであり、'80年代半ばに、すでにパーソナルコンピュータ上でキーフレームのみをユーザーが描画し、その中間イメージをソフトが補間する中割アニメーションを実現していた。
 そのコンセプトに感心した僕は、ハードウェアも無いのに先にソフトウェアのパッケージだけを買い求めてマニュアルを隅から隅まで読み、AppleIIcが手元に届いたときには、すでにFantavisionの使い方がすべて頭に入っていたほどだ。
 もちろん、現在の目から見るとプリミティブ極まりなかったが、当時のハードウェアの制約の裏をかく様々なテクニックを案出し、このソフトを使って僕とCG仲間が作成したアニメーションが、Fantavisionのオフィシャルなサンプルデータとして採用されたのは良い思い出となっている。
 AppleIIcにはNTSCのビデオ出力端子が標準装備され、ティルトスタンドを兼ねた持ち運び用のハンドルまで付いていたので、どこかに持っていってアニメーションのデモを行うには最適のマシンだった(僕の手には届かなかったものの、純正のモノクロ液晶ディスプレイまでオプションで用意されていた)。思い返してみると、僕がある時点からノート型のMacしか買わなくなった(初代iMacなどの縁起物は除く)ことの原点は、このAppleIIcにあったように感じられるのである。

(大谷 和利)

 

みなさんおなじみの大谷さんのエッセィです。 なぜか大谷さんというと、自転車をつれて歩いているという印象が、、、 また、どこかのイベントではステージをお願いします。(とりあえずは4月の大阪懇親会で、、、)

(MacTreeProject)

大谷 和利
Kazutoshi Ohtani


1958年生まれ。テクノロジーライター、私設Macエバンジェリスト、自称路上写真家。一度買ったMacは売らない主義なので、いつも買い換えではな く買い足し。と言っても、ニューモデルの購入頻度は世間で思われているよりはずっと少なく、2、3年に1回程度。現在の愛機は初代PowerBook G4で、今はそのフルモデルチェンジを待っている。

MacTreeProject・2003/2/15
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